ポストコロナ時代の幕開けに訪れたハワイには、未来に繋がるやさしい種がいっぱい蒔かれていた——。
2023年1月、アフターコロナ直後のハワイを訪れた。まだ旅行客の姿もまばらな「ダニエル・K・イノウエ国際空港」の表に出ると、南国の穏やかな空気とまるで「おかえり」と微笑むようにやさしく降る霧雨が、私たちを迎えてくれた。
エアポートタクシーの車窓越しにローカルの人々の暮らし向きを眺めながら、ここ数年の世界的な一時停止を思い返す。ここにいられることは、まるで奇跡だ。
「ノーマル」を取り戻す瞬間
ワイキキの中心地にあるホテルに荷物を置くやいなや、待ちきれないとばかりに海へ急ぐ。
奇しくも、コロナ禍における旅行者の激減により〝かつてない純度〟を取り戻したと言われるハワイの自然環境。
観光資源としての役割からしばし解放されていた海の表情は、心なしかリラックスして見受けられ、日差しを受けて煌めく水面の美しさに心が疼く。
異国の地で潮風を胸にいっぱい吸い込み、足裏で海水や砂と戯れて——。アーシングを通して、五感が喜び弾んでいるこの感覚はいつぶりだろう。
心は離るるべからず
ビッグサイズのハワイアンフードでお腹を満たし、賑やかな目抜き通りを散歩しながら今宵の宿へ。
ホテルのエレベーターに乗り込むと、たまたま居合わせた外国人の少女から「Where are you from?(どこから来たの?)」話しかけられ、思わずビクリ。
まだアフターコロナ間もない時期で、センシティブさが抜けない大人たちは、狭い箱の両端にて苦笑い……。
未だ、人との〝距離〟に怯える自分は確かにいる。しかし、これから徐々にその制約が取り払われたポストコロナ時代において、もっとも恐るべきことは、ソーシャルディスタンスから派生した〝心の壁〟が私たち人間同士を繋ぐ、コミュニケーションの自由度や悦びを阻むことに他ならない。
無邪気なスマイリーガールに別れを告げ、部屋に戻って窓を開ける。
ちょうど夕日が沈む瞬間——。息を呑む美しさに目頭を熱くしながら、そっと瞼を閉じ、静かな波音を自分の内側にも流していく。
見下ろすビーチバーから届く、ローカルミュージシャンの心地よい生演奏を子守唄に、気づけば深い眠りについていた。