【世界通信 / スイス】心地よい暮らしのポテンシャル

今回は、美しいアルプス山脈に囲まれた、欧州を代表するヒーリング(ウェルネス)スポット「スイス」から。恵まれた、豊かな自然環境を守る「エコ意識」が〝国民のDNAに根付いている〟と言われるサステナブル大国! そんなスイスでの、ウェルネス × サステナブルなライフスタイルについて、芸術の街・バーゼル在住のMIKAさんに、オンラインでお話を伺った。


〝宝探し〟を楽しみながら「ゼロウェイスト」へ

——スイスでのライフスタイルの中で、環境や社会に対してやさしさ(国民のサステナブル意識)を感じる場面を教えてください

スイス(バーゼル)では、「ゼロウェイスト」と呼ばれる、ゴミをゼロにする取り組みが盛んで、使い捨て容器を使用しない量り売りのお店がここ数年で増えてきました。また、ゴミを減らす取り組みとして、【Bring und Holtag】という日が年に一回、各地域に設けられ、家具や不用品を自治体のリサイクル場などに持って行き、ほしい人が無料で持ち帰ることができます。

フリーマーケットも頻繁に開催されています。スイスに来てから、子どもたちの服や玩具(特別な日のプレゼントやどうしてもすぐに必要なもの以外)は、ほとんどフリマで買うようになりました。家族と一緒に〝宝探し〟感覚で、フリマ巡りをするのが休日の楽しみのひとつです。

中でも、年に一回、バーゼル市の地区ごとに開催される【Quartierflohmi】は、私にたち家族にとっての心躍るイベント! 【Quartierflohmi】は、指定日に地域内に住む人が、ガレッジセールのように自宅前で不用品を売ることができる催しで、普段は見られない、いろいろなお宅の裏庭などが覗けたり、ローカルの新しいお店が発見できたりと、地域コミュニティの活性化にも繋がっています。

バーゼル市の【Quartierflohmi】
バーゼル近郊にあるラインフェルデンのフリマの様子

暮らしに息づくオーガニック志向

——スイスは欧州の中でもトップクラスの「オーガニック大国」(国民一人当たりのオーガニック製品の消費量は世界一とも)ですが、そうした人や環境にやさしい〝サステナブルな購買意識〟について、消費者目線でどう感じますか?

スイスは、食へのこだわりが強い人が多い印象です。そのため、「BIO(オーガニック)」の食品も、意識が高い人だけが買う特別なものというわけではなく、一般の人たちに日常の一部として取り入れられています。オーガニック食材の専門店なども人気が高いです。

ヴィーガンやベジタリアンの人も多く、普通のスーパーでも【BIO・ヴィーガン・ベジリアン対応の食品】が気軽にラインアップされています。添加物も少なく、スイスの食文化はとてもナチュラルだと感じます。

子どもの頃から「グリーンモビリティ」を実践中!

——ドイツとフランスの国境エリアに位置するバーゼルにお住まいということで、隣国へ気軽に旅行に行く機会も多いかと思います(うらやましい!)。現在、欧州には「6時間ルール(脱炭素に向けた取り組みとして、6時間を超える移動には電車利用を推奨)」がありますが、こうした「グリーンモビリティ」は普段から心がけていますか?

6時間ルールに関しては、あまり意識はしたことはないのですが、我が家は車がないため(バーゼル市内はどこでもバスやトラムで移動できるので、車なしでも生活可能)、移動はほとんどバス、トラム、電車です。スイスはそれほど面積が大きくないので、バーゼルからイタリアの国境近くまで電車で4時間ほど。このくらいの移動時間であれば、飛行機ではなく電車を使うようにしています。

そうそう、スイスの電車には子どもが遊べるファミリー車両がついているものもあり、中には滑り台などの遊具が設置してあるんです!

あえて電車移動を選びたくなる〝トレインキッズパーク〟

日常のシーンでも、自転車で通勤・通学をしている人がとても多く、小学生の多くはキックボードを使っています。このキックボードは、バーゼルの子どもたちの主要な移動手段になっていて、各家庭のマストアイテム!(我が家の子どもたちも2才からキックボードを乗りこなしています)市内では、電動キックボードのレンタルをよく見かけます。

〝食べられるカトラリー〟でエコな外食

——日本にはないような、スイスらしいサステナブル文化はありますか?

これはバーゼル市内の取り組みですが、ある一定人数が集まるイベントでは、使い捨ての紙コップやお皿の代わりに、洗って繰り返し使える食器で食事を提供し、食べ終わってお店にそれを返却すると、デポジットが返ってくるシステムがあります。スーパーでも〝食べられるストロー〟が売っていたり、最近では、外食先で〝食べられるフォーク〟を出してくれるお店もあってビックリしました(いずれも小麦原料のクッキー生地)。

食に関するエコ意識という面では、「フードシェアリング」も行われています。各家庭や小売店などで食べきれなかったり、売れ残ってしまった食品を置いていけるスタンドがあり、そこから必要な人が無償で持ち帰れるようになっています。

他にも、家にある使用可能な不用品に【Gratis(無料)】と張り紙をして自宅前に出しておくと、通りすがりのほしい人が、自由に持ち帰ってくれます。そのため、家具や雑貨などを中心にいろいろなものが、街中のいたるところで無料で手に入るんです。

食品ロス削減に向けた「フードシェアリング」

自然環境を活かしたウェルネスライフ

——自然豊かなスイスのウェルネストレンドについて。「心身の健康」にまつわる国内のカルチャーやトピックはあります?

スイスでは、ハイキングが趣味の人が多いです。街に住んでいても、少し移動すれば豊かな自然があり、コースも多いため、気軽にハイキングが楽しめます。私もスイスに来てから、本当にたくさん歩くようになりました。また、スイスには海がないのですが、川や湖が多いので、夏になるとプールだけではなく、そうした自然の中でみんな泳ぎを楽しんでいます。

美しい自然に囲まれたスイスでの暮らしぶり

街中では、ジョギング率が高いです。育児に協力的なお父さんが多く(「主夫」の割合も多め)、ベビーカーを押しながらジョギングしている姿をよく見かけます。ヨガやメディテーションなども人気ですね。ちなみにスイスにもサウナがあるのですが、男女混浴&真っ裸での利用になります……(私は未体験)。

土地のパワーに癒され……

——MIKAさんのスイスでの「ご自愛タイム(自分を愛する時間)」を教えてください。

スイスは観光資源に恵まれており、少し足を伸ばせば絶景に出会うことができます。コロナ禍で他の国に行きけないときも、まわりに自然が多いので、近場で気分をリフレッシュすることができました。また、バーゼルは美術館や博物館も多く、ミュージアムパスなどを利用して気軽にさまざまな文化施設に足を伸ばせるのも嬉しいところ。気分が落ち込んだときに美しいものを見て癒されるというのが、私のストレス解消法なのですが、そういう点でも、自然やアートが身近にあるスイスは〝最高の環境〟だと思います。

最近は、畑仕事にもハマっています。というのも、応募から数年、順番待ちをして、昨年3月にバーゼル市で貸し出している「ファミリーガーデン」をようやく借りることができたんです! 農薬は禁止されているので、完全無農薬で野菜やハーブを栽培しています。前の持ち主から引き継ぐ形になるので、芽が出ても花が咲くまで何の植物かはわかりません。次は何が咲くのかな? と毎回楽しみにしています(イチジクやリンゴの木、月桂樹、ラベンダーやローズマリー、薔薇……!?)。

能登で生まれ、自然に囲まれて育ち、子どもの頃は祖父母と一緒に毎日、畑や山、海に行っていた私。ここスイスで改めて、土地のパワーに癒される日々です。

バーゼル市の「ファミリーガーデン」
MIKAさんが育てたガーデンハーブ / 「土いじりをしていると無心になれてストレス発散になります」

スイスの人々の「ウェルネス × サステナブル」なライフスタイルは、いたってナチュラル。〝心地よい暮らしのポテンシャル〟は、自然環境と人との共生がもたらすリラックスした「余白」から生まれ、紡がれていくものなのだろう——。

取材・文=中山理佐


MIKAさん

石川県七尾市出身。成城大学文芸学部芸術学科を卒業後、ロンドンへ。ロンドンの専門学校でマルチメディアデザインのプロフェッショナルディプロマを取得。日本とロンドンで働いた後、2012年にカナダとフランスでフランス語を学ぶ。2012年からアンティークの買い付けとオンラインショップを始める。2013年の結婚を期にスイスのバーゼルへ。2023年にバーゼル大学で美術史と図像学の修士号を取得。現在は、夫と8歳・3歳の子どもたちとバーゼルに暮らしながら、美術館に勤務している。

〜能登半島出身のMIKAさんからメッセージ〜

【能登半島復興支援へのお願い】
能登半島地震の被災地では4月以降まで断水が続く見込みの地域もあり、今後も復興には膨大な時間、人手、費用がかかります。地域の人たちの力だけではとても難しく、どうか全国のみなさんの細く長い支援のほど、よろしくお願いいたします。
能登地方以外は、すでに観光が可能になっている地域も多く、そうした場所を選んで旅することも支援のひとつになります。また、まだ観光が再開できない被災エリアでも、すでにオンラインショップや催事での物販を始めているところもあります。ぜひ、能登をはじめ、被災地の商品を食べて、買って、復興支援にご協力いただけると幸いです。(MIKA)

※掲載画像はMIKAさんよりご提供いただきました。

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