スタイリストとして活躍するJOEさん、妻でデザイナーのHARUMIさん、娘のSOLANAちゃん(6才)のファミリーが旅するように暮らした場所、それは「世界」。一年間で19カ国を巡った、世界一周「SOLA旅」の秘話を通して、自分らしい生き方・暮らし方のヒントを見つける旅に出よう。
「休めない」から「休もう」へ
——そもそも、世界一周「SOLA旅」を始めようと思ったきっかけは?
JOEさん:「世界一周」という提案は、僕から家族に切り出しました。というのも、SOLANAが小学校に入学する前の自由度の高い一年間で、〝家族で一緒に何かをしたい〟とずっと思っていたからです。コロナ禍を通して、「休み」に対する自分のマインド変化があったことも大きかったですね。
——「世界一周」を決意するほどの、マインド変化が気になります。
JOEさん:僕のような、フリーランスのスタイリストは大勢いるので、常に「イス取りゲーム」をさせられているような感覚があったんです。〝休むと誰かにこの場所を取られてしまう〟そんな思いを抱えながら、約20年間ずっと走り続けてきました。しかし、コロナでみんなが一時停止を余儀なくされたことで、「休み」に対する概念が180度変わったんです。「休んでいいんだ」「休みって大事」。これを実感できたことが、SOLA旅を決意するきっかけになりました。
——とはいえ、一年間、日本でのライフスタイルから離れるという決意は並大抵のものではないと思います。最後に背中を押したものとは?
JOEさん:コロナが明けたタイミングの頃、世間的にも、また忙しい日常が戻ってきそうな雰囲気を感じていました。だからこそ、ここで何らかの決断をしないと、また同じような日々の流れに飲まれてしまう……。ちょうど、デザイナーの妻・HARUMIが手がけるブランドが10周年を迎え、こちらも一度立ち止まって今後を見つめるタイミングだった。「今なら休める」すべてのパズルがハマった〝音が聞こえた〟瞬間でしたね。休む決意をしてからは、まるで導かれるように、「SOLA旅」へと道が繋がっていったんです。
「一年間休んで、世界一周の旅をしない?」
——JOEさんから「世界一周」に誘われたとき、HARUMIさんはどう感じましたか?
HARUMIさん:それまでは、夫がとても忙しかったこともあり、年末にまとまった休みをとって家族の時間を過ごすというスタイルでした。〝たとえ数カ月でも家族で過ごす時間がほしい〟〝家族で一緒に何かをしたい〟そんな思いをずっと抱えてはいたのですが、私が休暇の提案をしても、夫は「休めないよ」の一点張り……。そんな彼から、いきなり「一年間休んで、世界一周の旅をしない?」と誘われたものだから、さすがに驚いて、「まずは2週間、お互いに冷静になって考えましょう」と。実はこのとき、すでに私の中で行くことは決まっていました。では、行くためにはどうすれば良いのか。実現可能なプランを考えたり、不安や迷いを消すための時間がほしかったんです。
——なるほど。そして2週間後、HARUMIさんの最終決断も「GO」が出たわけですね!
HARUMIさん:そもそも最初は、「世界一周」ではなく、「一年間休む」ことに意味があったんです。なので、この一年間をどう家族で過ごそうかと考えたときに、もうひとつ「仕事を休む」という約束も加えることにしました。私たち夫婦はお互いフリーランスなので、やろうと思えば、仕事はどこでもできてしまうからです。〝日本にいるときっと仕事が気になってしまう〟だとすれば、こんなにまとまって家族の自由な時間が使える機会も滅多にないだろうから、「世界一周ができるなら、今やろう!」と、夫の提案に乗る決意をしたんです。
——「世界一周」という大きなファミリープロジェクトはどこから思いついたのでしょう?
JOEさん:知り合いから、航空会社が「世界一周航空券」というものを出しているという話を聞いたんです。詳しく調べてみると、想像以上にリーズナブルで驚きました。いろいろなプランがある中で、僕たちが選んだのは「四大陸プラン」(1大陸で4回乗り換え=計16回の飛行)のビジネスクラス。これで大人一人当たり約80万円!かなりお得でしょう?(笑)これだ!と思って、「世界一周」を計画し始めました。
——「行くぞ!」と決めてからの具体的な実行プランは?
JOEさん:まずは、僕が担当していた仕事を、信頼できる他のスタイリストに引き継ぐ作業に半年くらい。それが終わってから旅行準備に入ったので、出発まではかなり時間はかかりました。出発当日までバタバタしていた記憶がありますね。
——そうして、JOEさんの提案(2022年4月末)から約1年後の、2023年1月31日に、オーストラリアのパースに向けて出発されたわけですね。スタイリスト&デザイナーのおしゃれファミリーなので、スーツケースの中身(とくにファッション面)が気になります。
HARUMIさん:洋服はかなり厳選して、一人一個のトランクに四季分(1シーズンに3〜4パターンの組み合わせ)を詰めて出発しました。荷物は増やせないので、買い物はガマンガマン……。だから、毎日同じようなファッションをしていた気がします(笑)
人と自然の「生きる」パワーに圧倒されて
——「SOLA旅」では、19カ国を訪れたわけですが、最も印象に残っている国はどこでしょう?
JOEさん:僕は、混沌としたエネルギーをひしひしと感じた「モロッコ」です。たまたま、訪れたときが「犠牲祭」(日本のお正月のような祝い事)のシーズンだったのですが、そこで見た、羊をさばく生生しい光景は、「死生観」を見つめる大きなきっかけをくれました。そうした人間の生きるパワー×イスラム圏ならでは建築デザインや賑やかな音楽……。〝カルチャーショック〟とはまさに、この国を捉えた言葉のような気がします。
HARUMIさん:私はアイスランド!(JOEさん「僕もアイスランドと迷った!」)モロッコでは「人間のパワー」を感じましたが、アイスランドでは「自然のパワー」を色濃く感じたからです。
SOLANAちゃん:オーストラリアの公園が楽しかったな。大好物のアイスクリームが一番美味しかったのはハワイ!
ウェルネス×サステナブルな〝やさしさ〟を感じた国
——nonのテーマでもある「ウェルネス」や「サステナブル」を感じた国についても教えてください。
HARUMIさん:ウェルネスに関しては、私の親戚も暮らすスペインでしょうか。「自分を愛し、人生を楽しむ」という国民性が「ウェルネス」を象徴しているように感じます。サステナブルに関しては、「コペンハーゲン」が印象深いですね。まず、日本と道路の造りが全然違います。自転車用レーンが広くしっかりと確保されていて、いろいろなタイプの自転車が通れるようになっているんです。子どもを後ろに数人乗せられる、トレーラータイプの自転車が主流で、「グリーンモビリティ」が生活に馴染んでいる光景に驚きました。スーパーに行っても、オーガニックやヴィーガンの商品が普通に並んでいて、子どものおやつ選びも安心。いろいろなシーンで〝やさしさ〟を感じた国でしたね。
——SOLA旅のテーマである「暮らすように旅をする」で意識したことは?
HARUMIさん:その土地で、心地良く過ごすこと。そのため、宿(メインはAirbnb)だけは、多少お金が高くても、快適で清潔な場所にこだわりました。料理を作る、部屋でくつろぐ、眠る……。これは、「暮らし(家時間)」を意識した旅だからこその選択です。旅する中で、さまざまな失敗も経験したからこそ、ライフスタイルの基点となる家(今回は宿)は大事な場所だと、改めて感じました。
——YouTubeで「SOLA旅」を拝見していましたが、今回の旅では、スペインにいるHARUMIさんの親戚ファミリーを訪ねたり、現地で日本人同士の交流を育んだり……。世界を舞台に、仲間とのコミュニケーションを楽しむ姿も魅力的に感じました。
JOEさん:旅の途中で知り合った方や、日本からわざわざ海外にいる僕たちに会いに来てくれたファミリーと一緒に「SOLA旅」を楽しめたことは、ご縁であり、本当に有り難いなと思っています。
取材・文=中山理佐
>後編へ続く
城 正博(JOE)さん
スタイリスト / 1976年和歌山県出身。メンズ誌を中心に活躍し、広告やタレントのスタイリングも数多く手がける。2023年1月31日から妻と当時5歳の娘とともに世界一周。YouTubeチャンネル「SOLA旅」で旅の記録を発信している。Instagram
HARUMIさん
ファッションデザイナー / 1978年スペイン生まれ 。フリーランスデザイナーとして活躍し、自身のアパレルブランド「DOMENICO+SAVIO」も運営している。Instagramで「SOLA旅」の記録を発信している。Instagram
※掲載画像はJOEさんよりご提供いただきました。