【世界通信 / ドイツ】君たちはどう働くか

ワークライフバランス世界一〟ドイツ流「人生の幸福論

「物流2024年問題(働き方改革法案により、ドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる問題の総称)」を皮切りに、今春、日本における働き方のシフトチェンジの機運が高まっている。

組織に属し、残業や休日勤務といったオーバーワークが評価対象とされた「土の時代」から、個人主義かつ自由度の高い働き方が叶う「風の時代」へ。(とはいえ)DNAに「勤勉」の精神が息づく日本人は、これからどう働き、どう生きることに幸福を見出すのだろうか——。

今回は〝ワークライフバランス世界一〟とも称され、「週4日制」のモデル運行もスタートしているドイツから、幸せな生き方に通ずる働き方のヒントを探っていこう。


ドイツ在住15年目のワーキングマザー・Sunnyさんにオンラインインタビューで、現地のワークライフバランスのリアルを伺った。

「ワーク<ライフ」の充実に価値を見出す国民性

——短時間で効率よく業務成果を上げるドイツ人のワークライフバランスは世界一!とも言われています(事実、週平均労働時間は34.3時間とヨーロッパで最短。ちなみに日本は36.6時間 / 2023年データ)。実際にドイツで働いてどう感じますか?

職業にもよりますが、たしかに長時間労働は少ない気がします。ドイツの人々はプライベートの時間をとても大切にしているため、会社に長居することなく、効率的に仕事を終わらせられるように働いています。また、職種にもよりますが、ホームオフィスが導入されて久しいので、週の何日かは在宅で働くことも可能な会社が増えました。そのため、よりライフワークバランスの調整がしやすくなった印象があります。金曜日は特に電車が空いていますね。

——現在はまだ一部の職種でのトライアルですが、これから「週4日制」が本格導入されたと仮定すると、ドイツ社会でどんな変化があると思いますか?

よりワークスタイルが効率化されることで生産性も上がり、また休日が多くなることで労働者の幸福度も高まるのではないでしょうか。今までと給与が変わらず、社会保障があり、経済が回っていくのであれば、ぜひ導入すべきだと思います。

【ミュンヘンオリンピック公園】毎春、1972年に姉妹都市の札幌市から寄贈された桜が咲き誇る。

有給取得率100パーセント!労働者の人権をがっちりガード

——ドイツで感じる日本との働き方の違いは?(ワークライフバランスや残業文化など)

雇用時にサインする契約書には、業務内容のほか、1日の労働時間数や有給休暇の日数、病欠有給最大日数などが細かく記載されています。週あたりの最大残業時間数も示されているので、繁忙期に労働時間が長くなった場合は代休を取ったり、別日に遅く出社するなど、週や月の労働時間数の調整をすることが可能です。その背景には、法律で1日の最大労働時間数が上限10時間までと設定されていることがあり、違反した場合には、会社や管理監督者(部長など)が罰金を支払わなければなりません。

また、有給休暇の取得率も100パーセントです!フルタイム雇用であれば年間約30日(6週間)、パートタイム雇用でも週の労働時間数にもよりますが、年間20-24日(4-5週間)取得できます。ちなみにこれは、月の労働時間数が少ないミニジョブ雇用(最低時給1時間12.41€、月額収入538€までのパートタイムジョブ)にも当てはまり、それとは別に病欠の場合も給与が支払われます。

——そこまで社会システムで保障されていると、労働者も安心して働くことができ、生産性の向上にもつながりますね。

労働環境が整っているドイツでは、休暇にどこへ行くかを楽しみに働いている方も多いです。そのように心の余裕がもてるほど、労働者の人権がしっかりと守られているということでしょう。日本における残業文化や不休の連続勤務は心身を疲弊させ、「過労死(karoshi)」という言葉が海外で通じるほどの社会問題になっていますよね。その点、欧州では、元来的なキリスト教の精神(日曜日は休む)の影響もあるのか、人が休みなく長時間働くという概念はまず存在していません。

——逆に、ドイツで働く中で戸惑ったことはありますか?

ドイツでは、雇用契約書に記された業務内容以外の仕事に関しては、自ら一線を引いて働いている方が多いです。時には、相手から「それは私の仕事ではありません」とハッキリ言われることも(苦笑)。良くも悪くも相手の顔色や気持ちを慮る日本での働き方に慣れていると、白黒はっきりしているドイツ人のワークスタイルには、慣れるまで驚くこともあるでしょうね。

ニンフェンブルク宮殿(ミュンヘン)

オン・オフは〝自分軸〟で切り替える

——そうした個々人の明確なスタンスこそが、ワークライフバランスに通じているように感じます。

ドイツでは、仕事(出世)よりも、家族や自分自身との時間を持つことを人生における優先順位のトップにしている方が多いので、仕事とプライベートのオン・オフの切り替えは、気持ちいいくらいにスパッとしている印象です。ダラダラと残業しないことが、ワークバランスが保てるポイントかもしれません。

——ちなみに、ドイツ人は「自己肯定感が(とても)高い」と言われていますが、実際にそう感じる場面はありますか?

ドイツで暮らしていると、周囲の自己肯定感の高さを感じる場面は多いですね。これには、社会・文化の中に浸透する「個人主義(個人が各々の権利や自由を主張し、尊重する考え)」が影響していると思います。補足すると、これは自分の意見を相手に押しつけるような「自己中心主義」とは違い、あくまで自らの想いを相手にストレートに「届ける」というスタイル。ドイツには、さまざまな国のバックグラウンドを持った方たちが多くいるので、個人の率直な意見交換は、他者への理解を深めることにもつながります。

——幼い頃から「個人主義」の文化で育つと、自ずと「自分軸」が確立されていきそうですね。

大人社会がすでに「個人の権利」を尊重する環境にあるので、子どもたちも幼い頃から自分の意思や意見を大事にしています。その結果として、「自分軸(自己肯定感)」が育まれていくのでしょうね。

ドイツ最高峰の山・ツークシュピッツェから見下ろしたアイブ湖

組織全体を笑顔にするウェルネスサービス

——最近のドイツのウェルネストレンド(心と体の健康に関するトピック)は何でしょう?

私が今、注目しているのが「Wellpass(ウェルパス)」で、これは、ウェルパス導入企業に勤めていれば、提携先のフィットネススタジオに通い放題(従業員の家族も1人あたり月額50€を支払えば利用可能)というお得なサービスなんです。

こうしたサービスが生まれた理由のひとつに、ドイツ企業の従業員のウェルネスへの配慮が挙げられます。

従業員のウェルネスは、組織の安定&利益へ

  • 従業員の満足度アップで、仕事の生産性向上につながり利益増が見込まれる
  • 離職率が低下することで、再雇用に関する時間的&経済的損失を避けられる
  • 従業員の病欠による給与支払損失を避けられる

会社側(雇用主)と従業員の双方にとって有意義なウェルネス関連のサービスは、これからもっと国内で拡がっていくでしょうね。

ヴァルヒェン湖(ミュンヘン)

プラスチックフリーは当たり前〝梱包材のないお店〟

——ドイツはサステナブル先進国ですが、暮らしの中でそれを感じる場面はありますか?

日本とドイツの大きな違いは、やはりプラスチック梱包の削減率でしょう。こちらのスーパーでは、ほとんどの野菜はラップをされていない状態で売られていて、量り売りや個別売りも多いです。冷凍食品も同じで、例えば冷凍ホウレン草だと紙製のボックスの中に、いくつかの塊がそのまま入って売られています。

ドイツのスーパーでは、フレッシュ野菜が〝そのまんま〟

全商品が量り売りの「Ohne Laden(オーネ・ラーデン)=〝梱包材のないお店〟」も都市を中心に多く展開しています。このお店では、プラスチック容器や梱包材が一切なく、容器は持参するか、お店で販売されているものを利用します。

【オーネ・ラーデンの店内】米やパスタ、調味料や香辛料、ナッツやミューズリー、オイルやヴィネガー、洗剤やシャンプーなどなど、オール個別&量り売り。

不用品リサイクルを通して、地域社会の活性化へ

また、ミュンヘン市内には慈善団体が運営しているリサイクルショップがあり、不用品のほとんどはこちらに持ち込んでいます。なぜなら、不用品を捨てればゴミになりますが、再販売してもらえれば自分が不要と思うものを地元の必要な方へ安価に届けられるし、慈善団体の活動支援や雇用創出にもつながるからです。

ミュンヘンの街中には、不要になった洋服や靴をいつでも気軽に捨てられる大きな回収コンテナがいくつも設置されていますよ。(※違法のものも多いので見極めも必要)

慈善団体の運営するリサイクルショップ

——最後に、ドイツでのSunnyさんのウェルネス(ご自愛)タイムを教えてください。

ヨガと、サウナで汗をかくことです。何を隠そう、ドイツのサウナは男女混浴&全裸必須!(水着も禁止)混浴に慣れた時期もありましたが、利用者からの要望が多かったのか、最近ではレディースデーを設けるサウナ施設も増えたので、その日を利用してリラックスタイムを過ごしています。

【ドイツのサウナ】「レディースデーなのに、サウナで働く方は男性ばかり……(苦笑)」

「あなたはどんな人?」——この問いに、肩書き(職業や社会的役割など)以外で返答できる人は、どれくらいいるだろう。自分らしさを尊重し、語れる人。そんなある意味での〝ウェルネスパーソン〟こそが、これからの時代にはもっと輝くはずだ。ドイツ流のワークライフバランスを見つめることは、真に価値のある「人生の幸福論」のページを繰り直すひとつのきっかけを与えてくれる。

生き方を制する者は、働き方を制す

取材・文=中山理佐


Sunnyさん

ドイツはミュンヘン南部在住15年目。「幸せな国際離婚」を経験したシングルマザー歴16年。輸出関連の個人事業主&ドイツの現地企業で雇用される側を経験中。日本からドイツに一番輸入したいものは、温泉と夏祭り。ドイツから日本に一番輸出したいものは〝個人主義マインド〟。好奇心旺盛な読書好き。ヨガ歴ゆるーく20年。心の栄養に建築やアート鑑賞をし、ガーデニングを楽しんでます。 2022年からは、ドイツのカルチャーやライフスタイルを紹介するPodcastをスタート!Instagramやブログと併せて、ぜひチェックしてみてくださいね。

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※掲載画像はSunnyさんよりご提供いただきました。(タイトル画像は「ミュンヘン新市庁舎」)

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