【MY STORY】ダンラポッシュ店主・内藤裕子さんインタビュー「カヌレとワインと、サステナブルと。」(前編)

目黒は、清水商店街の一角に〝小さなフランス〟が存在する。オーガニックカヌレ専門店「Dan la Poche(ダンラポッシュ)」。開店から約7年、毎回完売が続く人気店を一人で切り盛りする内藤裕子さんにとっての「サステナブル(持続×自続可能)」なライフスタイルとは?自分の「好き」や「心地よさ」を信じる強さに縁取られた、彼女らしい「幸せのカタチ」に触れてみたい。


カヌレって実は〝サステナブルスイーツ〟

——まず、カヌレが〝サステナブルスイーツ〟だと知って驚きました。

そうなんです!カヌレはワインで有名なフランス・ボルドー地方の郷土菓子ですが、元を辿ると、ワイン作りの「清澄(卵白を使ってワインの中の不純物を取り除き、透明度を上げるために行う作業)」という工程で余った卵黄を有効活用するために考えられたお菓子みたいです。

カヌレはボルドーの修道院で生まれたと言われていますが、そこでは養蜂が行われていたり(カヌレ型に「蜜蝋」を塗ることで、生地の表面がカリッと香ばしく仕上がる)、またボルドーは港町ということもあり、外国からバニラやラム酒といった製菓素材が入ってきたことも、カヌレ誕生に繋がる大きな要因だったのでしょうね。

——カヌレの誕生秘話には、今で言う「フードロス削減」や「多様性(多文化共生)」のニュアンスを感じますね。そんなカヌレを、内藤さんが作り始めたきっかけは?

私は、子どもの頃からとにかく甘いものが大好きなんです。大人になってワインを嗜むようになり、「ワインに合うお菓子ってなんだろう?」と考えたときに、ふとカヌレが思い浮かびました(大学時代に経験したフランス留学の影響かも)。今でこそブームになり、いろいろなお店で手に入るカヌレですが、10年ほど前はまだ名も知れぬ存在……。そこで、フランスの動画や料理本を参考にしながら手作りし始めたのが、カヌレとの深い関係性の始まりでした。

——最初は自分で楽しむために作っていたわけですね。そこから「ダンラポッシュ」の開店に至る経緯は?

カヌレは「焼き菓子の中で作るのが一番難しい」と言われているハードルの高いスイーツなんです。案の定、何度も失敗を繰り返しながら、「上手くなりたい!」の一心でチャレンジを続けました(その分、お金もかかりましたが……苦笑)。そうこうするうちに腕も上がり、友人にプレゼントしたところ、「これ美味しい!お店をやってみたら?」と言われたんです。そうした周囲の後押しもあって、当時は会社員だったので、休日(土日祝日)を利用してお店をオープンすることにしたんです。

フレンチカジュアルがお似合いの内藤さん。店舗にお邪魔してお話を伺った。

「自分を楽しませる」という生き方

——会社勤めをしながら、いきなり実店舗を構えてカヌレ販売を始める勇気がすごいですね。

だってみなさん、趣味や習い事にはお金をかけるでしょう?私もそんなの感覚でお店を始めたんです。赤字でも構わない、自分が楽しむために週末だけカヌレ店をやろうって。

——そこから、今では開店前に行列ができるほどの人気店になったわけですが、道のり(売上)は順調でしたか?

最初は近所の方が買ってくれて、そこから口コミやSNSで噂が拡がり、わざわざ遠方からカヌレを買いに来てくれる方も増えました。だんだんと忙しくなってきたこともあり、開店から半年ほど経ったとき、会社を辞めてカヌレ店一本で歩む決意をしました。有難いことに、この約7年、毎回「完売御礼」が続いています。

必ず購入したい方はネットから事前予約を!

——内藤さんが考える「自分らしい働き方」とは?

現在も実店舗での営業は「土日祝日」のみで、平日はネットショップと仕込み作業を行っています。すべてワンオペなので、これくらいのペースで働くスタイルが私にとっては丁度良い。私はシングルで、派手にお金を使うタイプでもないので、まあまあ自分が満足できる収入があればそれで幸せ。自分を擦り減らしてまで無理に働くことは最初から考えていませんでした。

——その「ゆとり」にこそ、内藤さんの芯の強さが表れているように感じます。そうした「自分軸」はどうやって確立したのでしょう?

大好きなフランスを訪れるたびに感じる、人や文化のポジティブな影響は大きいと思います。フランスの方は他人の目を気にせず、自分らしさを大事に、今を楽しみながら生きていますからね。

フランス・サンセールのワイン畑(内藤さん提供画像)
パリで友人たちとカンパイ(内藤さん提供画像)

——自分の「好き」や「心地よさ」を信じる強さが、ハッピーな未来を引き寄せるのかもしれませんね。

甘いもの、ワイン、フランス、サステナブル(前職ではサス関連のPRにも携わっていました)……。自分の好きなものやこれまでの経験が、「ダンラポッシュ」にはギュッと詰まっていて、何だか不思議なご縁を感じます。

ミニマムな店内にも、さりげなく内藤さんらしい「好き」が垣間見れる。
「お気に入りのAir Franceのミトンはフリマアプリで見つけてポチッと」(内藤さん)

そうそう、「ダンラポッシュ」という店名は、フランス語で「ポケットの中」という意味なんです。昨今は、お洒落で高級なカヌレも増えていますが、私の中にあるカヌレのイメージは〝いつでもポケットにあって日常的に美味しく楽しめるもの〟そんな気軽でやさしいお菓子をこれからも作り続けていきたいなと思っています。

>後編へ続く(Coming soon…)

取材・文=中山理佐


Dans la Poche カヌレ専門店

オーガニック小麦粉、平飼いの卵、甜菜糖…など、安心素材を厳選して、蜜蝋と銅型を使用して焼き上げる本格的カヌレ。ワインに合うカヌレがコンセプト。

住所:東京都目黒区中町1-36-6
営業日:土日祝日(13:30〜売り切れまで)

予約券はネットショップにて販売。最新情報はSNSでご確認ください。
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