【世界通信 / メキシコ】アボカドの憂鬱

一玉のアボカドから「ベジ・ヴィーガニズム」を考える

 世界的に機運が高まっている「ヴィーガニズム」といえば、「可能な限り、動物からの搾取を避ける」という動物愛護のポリシーに基づいているが、近年では、畜産業が及ぼす環境負荷の問題等、サステナブル意識から「ヴィーガン(完全菜食主義)」というライフスタイルを選ぶ人も増えている。

 とりわけ後者の観点でみれば、ターゲットになるのは「肉」だけではなく、ヴィーガンの〝メインディッシュ〟である「野菜・果実」も挙げられる——。

 

 そのひとつが、アボカド。「世界一栄養価の高い果実」としてギネスブック認定されるスーパーフードで、美容効果も高いことから、日本でも人気が高い食材だ。

 このアボカド、実は国内生産数も徐々に伸びており、栽培面積はこの6年で約9倍に拡大し、年間14.4トンの収穫が叶っている(和歌山・愛媛・鹿児島etc…)。しかし、日本においては未だ99パーセントが輸入頼みというのが現状で、直近ではピーク時よりもやや減少したものの、年間輸入量は約5万トンと高水準を保っている。アボカドはもはやブームを超え、日本の食卓にレギュラー食材として定着したと言えるだろう。(※データ「財務省貿易統計2022」他)

「奇跡 or 悪魔の果実」

 まさに、ベジ界のスーパースターとも言えるアボカドだが、その栽培は非常に環境負荷がに高いことも話題に……。


<アボカド栽培における問題>

  • 栽培に大量の水が必要になるため、生産地では水不足が深刻化し、住人に健康被害が出ている。
  • 生産エリア拡大のため、森林伐採が行われ、環境破壊に繋がっている。
  • 熱帯の国で栽培されることが多いため、世界中への輸送段階でCO2の排出量が高い。
  • アボカド農家がマフィア(麻薬組織)の標的になり、生産者への暴力や搾取が横行している。 etc…

 こうしたネガティブな問題から、「奇跡の果実」と称えられるアボカドも、最近では「悪魔の果実」呼ばわりされる始末。生まれた場所から世界各地へ長旅させられた挙句、チヤホヤされたり、バッシングされたり、アボカドもさぞ憂鬱なことであろう。

サス界の新テーゼ⁉︎「ベジ・ヴィーガニズム」

 アボカドをはじめ、「野菜・果実 × 環境問題」を考えることは、「ベジ・ヴィーガニズム」ともいうべき、サステナブル界の新テーゼではないだろうか。それに踏み込むうえで、まずは現地の実情を求ム!と、アボカド栽培数世界一のメキシコでコーディネーターとして活躍する、宮良高雄さんにオンラインでお話を伺った。

「コロナ後から続くペソ高の影響で、メキシコでもアボカドは値上がりし続けています。時期にもよりますが、現在は一玉15ペソ= 125円くらい。以前は、ワカモレ(アボカドディップ)がどのレストランでも無料サービスだったのですが、今ではお金を取るようになりました」(宮良さん)

 例えるならこれは、「日本の寿司屋でガリが有料」といった感覚だろう。アボカドが抱える諸問題について、メキシコ人はどう捉えているのだろうか。

「残念ながら、あまり話題になっていないのが現状です……。メキシコでアボカド生産は最も儲かるビジネスのひとつなので、生産エリアはどんどん増えています。知人のアボカド農園の経営者によると、そうした〝アボカドリッチ〟が目をつけられ、麻薬組織から高額のみかじめ料を取られたり、ドラッグ輸送の手伝いをさせられるなど、生産者への暴力や搾取の問題はやはり深刻なようです」

メキシコのアボカド農園の様子

 近頃、日本のスーパーでは、「オーガニック」「リッチテイスト」といった高品質・高価格のメキシコ産アボカドをよく見かけるようになった。現地でもこうした〝こだわりアボカド〟は増えているのだろうか。

「いやいや、アボカドは一種類だけですよ(笑)。とりわけ美味しいアボカドは、すぐに海外へ輸出されてしまうので、メキシコ人は味わう機会がないんです……。南瓜にも同じことが言えますね。そういう意味では、メキシコのスーパーに並ぶ食材はとてもシンプルだと思います。あまり輸入品に頼らず、食材の宝庫である、この国で採れたものがあくまでメインですから」

日本のスーパーに置かれた、チッチな〝こだわりアボカド〟

 こうした、足元にあるものの価値を活かす、ナチュラルな「地産地消」の文化は、日本でも再確認したい課題のひとつだろう。スーパーに並ぶ、目新しくユニークな〝トレンド食材〟ばかりについ目が行ってはいないだろうか。食材が、生産や輸送段階で環境に与える影響なども考えながら、未来に目を向けた消費者リテラシーを育んでいきたい。

メキシコの〝美味しい〟エコ話

 最後に、メキシコ国内でのサステナブル・レポートを聞いてみよう。

「ようやくプラスチック削減に向けた取り組みが本格的になってきて、数年前から、日本と同じようにマイバッグ持参での買い物が主流になりました。そうそう、メキシコのスターバックスには食べられるクッキーのストローもあるんですよ!」

 それは、なんとも美味しいエコ話!この、「食べられるストロー」のように、消費者が楽しみながら〝サス活(サステナブルな行動)〟できるアイデアの輸入は、海外から積極的に行っていきたいものである。

メキシコのスタバにある「クッキーストロー」。レギュラー商品で、一本22ペソ(約180円)。

 私がまだ子どもだったある日、我が家に初めてアボカドがやってきた。ゴツゴツとした謎の黒い球体を前に、母と一緒に恐る恐る、そしてちょっぴり興奮しながらナイフを入れたのを覚えている。初めて食べたアボカドは、正直、美味しいとは思えなかった。でも、もの珍しさから残さずに、ゆっくりと味わいながら食べた。その食材を理解するために。今では大好物だ。

 こうしたレアな体験が日常になり、何でもすぐに手に入る今の時代だからこそ、一玉のアボカドを通して、改めて食材の尊さを考えたい。ひとつ言えることは、どの食材にもストーリーがあり、私たち一人ひとりの小さなアクション(消費行動)が未来を創るということ。

 さて、今日は何を買って食べようか——。

取材・文=中山理佐


宮良高雄さん

メキシコ生まれ。1996年から現地で日系の旅行会社に勤務し、日本のテレビ番組のメキシコロケをほぼすべてコーディネート。2022年の独立後は、日本とメキシコの懸け橋になるような撮影(テレビ・雑誌)や、特殊ツアー、大きなイベントのコーディネート、通訳等をメインに日々奮闘中。秘境大好き!趣味はキャンプとテキーラ。

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